
トラウマを癒しへ。作品の力を最大限に引き出す文学研究
原 英一 (東京女子大学/イギリス文学)
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■「多くの文学は何らかの大きな心の傷=トラウマを土台にして築き上げられてきた」と先生は書かれていますが、私もそう思います。小説からは何らかのメッセージを訴えかけてくる作者の声が聞こえてくる気がします。それは文学だけではなく、芸術全てにおいて言えることです。ただ辛い経験を語るだけでなく、そこから踏み出そうとする人間の力が芸術作品から生まれてくる気がします。
私は震災の直後、家族といとこで家の工場(今では物置と化している所です)で過ごしていました。食糧を得るためにスーパーへ行くと3時間並んでやっと何か買って帰るという感じで、今まですぐに買えていた分とてもしんどく思いました。水も止まっていたので小学校へ水を汲みに行くと、多くの人が水を得るために並んでいました。水を持ち帰る時は自転車だったので大変で苦労しました。しかしそれが当たり前になっていきました。みんなで協力するのが楽しくなってきました。こういう生き方が人間として正しいのではないかと思うようになりました。勉強なんてする必要があるのか、情報化社会になって温暖化が進み自分で自分を殺してしまう形に陥るのではない、ただ生きているだけでいいのではないか、そう思うようになりました。しかし原英一先生や紅野謙介先生が言うように苦悩から何か生まれてきます。この震災はおかしくなっていた世を立て直すためにあったのだと私は思います。(高3・女子・わかば)
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■今回の大震災について文学面での視点から論じるというのは私の発想には全くありませんでした。今後、今回の大震災を題材にした文学作品は次々に出版されるでしょうが、その根底には各々の「心の傷=トラウマ」が内在しているはずです。私も文学をよく吟味して各々のトラウマを感じ取ってみたいと思いました。(高3・男子・A.S)
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■震災後、家の中は物が散らばって足の踏み場も無い状態になっていて、その中にはたくさんの本もありました。ライフラインは全て止まっていて、毎日寒くて不便な中で生活していると、当然本など読む暇はありませんでした。生活が少し落ち着いた後もニュースで震災の映像を見ると娯楽のようなものは何となく遠慮しなくてはいけないと思っていました。ただ、先生からのメッセージを見ると、単なる娯楽としてではなく、「癒し」として文学の力を引き出すことが必要なのだということに気づきました。そして震災から少し時間のたったころこそ、文学研究の役割が重要になってくるように思いました。(高2・女子・M.S)
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■この辛い経験はきっと何かの役に立つ、というにはあまりにも大きな出来事だったかもしれませんが、私たち人間は強いのでこれを糧にして生きていけると思いました。
自分があの時感じた思いは、あるいは自分にしか伝わらないのかもしれないけれど、だからこそどうにかしてでも自分の感じたこと、考えたことを伝えたいと強く思いました。また相手の心の奥深くの気持ちを察してあげられるような人間になれたらと思います。(高2・女子・さおり)
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■今まで有名な作家に対して、どうして作品を研究する学者さんがいるのかについてあまり深く考えたことはありませんでしたが、原先生のメッセージを読んで文学作品の中にある作者が込めた癒しの力を引き出すために学者さんたちがいるということが良くわかりました。作者の心の傷などのトラウマを研究する過程で作者の思いをくみ取っていくことで、その作品の力を引き出していくという点がすごく印象に残りました。(高3・女子・A.H)
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■先生の出身地でもある仙台が被災して信じられない気持ちもある中で、震災の中での文学の役割について考える姿勢に感動した。大震災のトラウマを文学で癒す試みに期待したい。(高2・男子・そうめんマン)
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■私には今までにトラウマになった出来事があります。「トラウマ」と聞くとあまりいい気持ちはしません。トラウマを文学へ活かすことができるとは考えたこともなかったので驚きました。文学には、たとえどんな出来事でもそれを活かして作品を書くことができるんだと思いました。(中3・女子・こう)
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■「トラウマを土台にして文学を築く」という考え方がすごく印象的です。私も今回の震災で心にトラウマのようなものができたのでこの経験をバネにできたらいいです。(高3・女子)
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■文学を研究する人がいる意味がよくわかった。震災で傷ついた気持ちなども文学にして昇華する方法もあるのだとわかった。(高3・女子・W)
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■震災後どの先生も「自分にできることはないか」と考えているのが共通していて、大震災を経験した私たちには嬉しいことだなと思いました。
私の母の実家が三陸沿岸にあり、原先生と同じくそこは私にとってなじみ深い場所でした。先日、母の実家へ車で行きました。大好きな三陸の海が牙を剥き、本当に怖かったんだろうなと思いました。そして私自身は、この震災を通して当たり前のことが本当はありがたいことなんだと思いました。(高2・女子・S.K)